初めて体験した4日間の隔離病棟 【甲状腺癌と術後のアイソトープ治療①】

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甲状腺癌はガンの中でも進行が遅く、完治できるガンとして有名ですが、アイソトープ治療と呼ばれる術後の治療があります。今回は、生まれて初めて体験した隔離病棟での生活と、アイソトープ治療について、詳しく体験談もまじえて紹介したいと思います。

 

 

目次

 

生まれて始めての隔離生活とアイソトープ治療

最初はたったの4日間だし、隔離生活ってどんなものか興味津々でした。新しい体験をすることが大好きなので、それほど恐れてはいませんでした。

 

しかし、フタを開けてみると、私の思いとは関係なく、暗闇は少しずつ私の精神に忍び寄ってきたのです。その暗闇とは、一体何か?日にちをおっていくごとに、それが明らかになってゆきます。

 

隔離病棟での入院生活が始まる前の気分を言葉で例えるなら、とても危険な崖の上にいるのに、周りからのサポートなどのおかげでそれがどれだけ危険なものかが本人だけが分かっていない状態、という感じでしょうか。

 

論理的に考えると、肉体的にはそれほど危険な感じはしないのですが、精神的な危険度は計り知れないものがありました。

 

アイソトープ治療とは? 

別名、放射線ヨウ素療法と言われているこの治療方法は、放射性物質であるI-131というヨウ素を使用する療法のことで、手術で取りきれなかった微量の癌細胞をやっつけるのに、効果的な治療法です。

 

私の場合は、癌細胞は体内には残っていないとのことなのですが、甲状腺細胞が少しでも残っていると、そこから癌の再発が起きないとも限らないので、念のために行うことになりました。

 

ちなみに私が受けたアイルランドアイソトープ治療はEUの基準に基づいているので、EU諸国ではほとんどが同じ基準で治療がおこなわれています。

 

また、EUにおけるアイソトープ治療はかなり普及しており、日本と比べると体制がしっかりしているようです。また、待ち時間も2ヶ月程度と日本に比べて少ないです。

 

アイソトープ治療は甲状腺癌の患者以外にも、パセド病患者など甲状腺の病気を持っている患者がこの治療を行いますが、その場合甲状腺癌の患者よりもかなり少ない量のヨウ素を摂取します。橋本病患者にも有効なのかどうかは分かりません。

 

海外のアイソトープ治療ってどんな感じ?(EUガイドライン

 以下は『Irish Cancer Society』というアイルランドの医療サポート団体からもらったパンフレットに記載されている、アイソトープ治療の概要を自分で翻訳したものです。

 

アイソトープ治療についてとても詳しく説明されています。日本のアイソトープ治療とは基本的には同じだと思いますが、細かい部分では違いがあるかもしれません。

 

 

甲状腺癌の摘出手術を受けた患者は、手術後に放射性ヨード療法(アイソトープ治療)を受けることがあります。これは、甲状腺レムナントアブレーションとしても知られています。医師は、必要に応じて、国際的なガイドラインに基づいて、患者に通知します。通常は、取り除かれた癌の大きさと、癌が再発するリスクによって、どんな治療を行うかが決まります。(参考文献:『Thyroid Cancer』|Irish Cancer Society)

 

 まずは、アイソトープ治療をどのような手順で、患者に知らせるのか、そして癌の再発するリスクなどについて、述べています。

 

この療法によって、手術後も残ってしまった微量の正常な甲状腺組織や、癌細胞、腫瘍を破壊できます。アイソトープ治療は通常、乳頭癌や濾胞性甲状腺手術後に与えられます。治療を受ける患者は、この治療のための専門医センターの待ち患者リストに入らなくてはなりません。全ての患者が放射性ヨウ素療法を受ける必要があるわけでない、ということを忘れないでください。(参考文献:『Thyroid Cancer』|Irish Cancer Society)

 

次のパラグラフでは、アイソトープ治療がどのように甲状腺組織を破壊するのか、また、治療の過程を説明しています。

 

 

アイソトープ治療には特別な注意が必要です。あなたはそれを受け取るために専門のセンターに入院します。 治療の前に、あなたは数日間滞在する寝室付きのプライベートルームに連れて行かれます。通常、これはメインの病棟から離れたサイドルームです。すべての食事はこの部屋に持ち込まれます。 あなたがアイソトープ治療を受けた後、あなたが家に帰るまでその部屋に隔離され、部屋を離れないように求められます。(参考文献:『Thyroid Cancer』|Irish Cancer Society)

 

最後に、入院後のどのような部屋に隔離されるのか、食事はどのようにするのかなどについて説明しています。 

 

アイソトープ治療は、ヨウ素131と呼ばれる放射性ヨウ素を使用していますが、痛みはともないません。ヨウ素131は通常、水と一緒に服用するため、小さなカプセルとして与えられます。放射性ヨウ素は血流に入り、体内の甲状腺細胞に移動します。甲状腺細胞は放射性ヨウ素を吸収し、吸収された放射性ヨウ素はすべての甲状腺細胞を破壊します。身体の他の細胞は放射性ヨードを吸収しないので、害はありません。甲状腺細胞がまだ存在する場合、この治療を繰り返す必要があります。(参考文献:『Thyroid Cancer』|Irish Cancer Society)

 

 

実際に効果はあるの?

アイソトープ治療をやるかやらないかは、その人の症状にもよりますが、早期の甲状腺癌(乳頭癌)の場合はほとんどの患者がアイソトープ治療を受けています。

 

そして、早期発見の甲状腺癌の5年後の生存率は100%なので、効果があるといっても過言ではないと思います。

 

私は医療関係者ではないので、絶対にある!とは言い切れませんが、それなりの効果があることは事実です。

 

実際の効果は、アイソトープ治療を受けてから数ヶ月後にMRIのスキャンを受けることで、体の中にどれくいの甲状腺癌が残っているかを確認できます。

 

また、アイルランドの医療関係者の情報によると、この治療によって逆に癌を発症する人もいるそうです。(放射性物質を身体に取り込むので、健康な細胞も多少ダメージは受ける、などが理由だそうです。)

 

しかし、この確率は、治療をやめて癌が再発してしまう可能性よりはるかに少ないとのことなので、少し怖いという気持ちはありましたが、治療の方を私は選択しました。

 

アイソトープ治療のメリット、デメリット

上記にもかきましたが、アイソトープ治療にはメリットとデメリットがあります。その両方を理解したうえで、受けるか受けないかの決断をしたほうが良いかと思います。

 

メリット

  • 手術で取りきれないほどの、小さなガン細胞まできれいに取り除ける
  • 痛みは全くともなわない
  • 他の放射線治療とは違い、皮膚にダメージを与えない
  • 体のほかの部位に、ガン細胞があるかどうかを確認することが可能

 

デメリット

  • 治療の1ヶ月前から、ホルモン剤の服用をストップする必要がある
  • 甲状腺の機能を補うホルモン剤の服用をやめることによって、新陳代謝の低下、抜け毛、体がだるい、うつ症状、心臓機能の低下など、いろいろな部位に支障をきたす。(TSH注射は高額ですが、これを打つことによって、アイソトープ治療の直前までホルモン剤の服用を続けることが可能です!
  • 体のほかの部位でがんを発症させることがある(詳しくは上記参照)
  • 1度で終わらないこともあり、その場合は、6ヵ月後にまた同じ治療を受けなくてはならない
  • 2週間前から食事制限をしなくてはならない。(昆布や卵、乳製品などヨードが多い食べ物を少なめにする)

 

こうしてみると、アイソトープ治療には、メリットよりデメリットの方が多いように見えます。

 

しかし、長い目でみると受けることにメリットがあるように思えたので、私はアイソトープ治療を受けることにしました。

 

患者によって状況も体調も違うので、医師や家族と相談しながら、決めるのが一番だと思います。

 

 

 アイソトープ治療の前の食事

摂取を控えた方がよい食品リスト

アイソトープ治療をより効果的に行うためには、アイソトープ治療の2週間前から食事制限をしなくてはなりませんでした。アイソトープ治療前2週間の食事ではヨウ素が含まれる食材をなるべく摂らないようにする事が大切です。私が病院からいただいたパンフレットによると、制限しなくてはならない食品は以下になります。

 

  • 昆布やわかめ
  • 乳製品(チーズ、ヨーグルト、ミルク)

 

これらの食品は完全に止めるのではなく、量を減らすだけで良いそうです。

 

しかし、これは普段からヨウ素の摂取が少ないヨーロッパの場合であって、日本人の場合は普段からの昆布ヨウ素を一番多く含む食品)の摂取量が世界で一番多いので、かなり控えた方が良いです。また、繊維を多く含む野菜や食品を多くとって、食事のバランスを整えることが大切と言われています。

 

食品以外で摂取してはいけないものリスト

食品以外にも、摂取してはいけないものがあります。病院からいただいたパンフレットによると、それらは9品目にも及びます。この辺は日本とEUの基準では少し違いがあるかもしれませんね。

  

1ヶ月前からホルモン剤(チラージン)の服用を止める理由

アイソトープ治療を行うにあたって、患者の体に残っている甲状腺癌のガン細胞がより効果的にヨウ素を飲み込むためには、アイソトープ治療を始める1ヶ月前からホルモン剤(チラージン)の服用を止めなくてはなりません。

 

詳しくは、アイルランドの医療団体『Irish Cancer Society』のパンフレットから抜粋して日本語に訳したものを紹介したいと思います。

 

このパンフレットの記載で分かりづらい部分は医師の説明をもとに、私が補足説明をしています。

 

高TSH値:アイソトープ治療に成功するためには、血流中に高レベルの甲状腺刺激ホルモン(TSH)が必要です。 このホルモンは甲状腺細胞を活性化し、放射性ヨウ素を吸収するように促します。 これを行うには2通りの方法があります。あなたのホルモン療法を止めるか、または治療前にTSHを注射することです。(参考文献:『Thyroid Cancer』|Irish Cancer Society)

 

ここで補足ですが、私が医師から受けた説明では、アイソトープ治療の成功の鍵となるのは、いかにたくさんの放射性ヨウ素甲状腺細胞が吸収できるかということになります。

 

こうすることによって、癌化した甲状腺細胞に吸収された放射性ヨウ素甲状腺に残ったガン細胞をやっつけてくれるからです。

 

また健常な甲状腺細胞も放射性ヨウ素を取り込むので、それらも破壊されます。※たまにガン細胞のみを破壊するというような説明をしているサイトを見つけますが、そうではないようです。

 

ホルモン療法を中止する方法:医師はアイソトープ治療の約4-6週間前にレボチロキシン(製品名:チラージン)の服用を中止するように求めるでしょう。 これは、これらのホルモンが体内のTSHの産生を停止するためです。 ホルモン療法を止めれば、疲れを感じることがありますが、ホルモン療法が再開されると、これは楽になります。 通常、ほんの少数の患者がホルモン療法を中止するよう言われています。(参考文献:『Thyroid Cancer』|Irish Cancer Society)

 

私は、止めるように言われた数少ない患者に分類されますが、私が通っている公立の大学病院では、TSH注射(タイロゲン)を投与することは滅多にないとのことでした。

 

このように病院によって対応が異なるので事前に良く調べる必要があります。もし止めなくても良いのであれば、それに越したことはありませんから。 

 

組換えTSH(タイロゲン)注射をする場合:ホルモン療法を継続し、ヨードカプセルを服用する2日前に臀部に2回の注射をします。 この薬剤自体は、チロトロピンアルファ(タイロゲン)として知られています。 それは、あなたの体内のTSH値のレベルを上げて、アイソトープ治療が確実に働くようにします。 rhTSHの副作用を経験することはまれです。 もし起こると、疲労、吐き気、頭痛を感じるかもしれません。(参考文献:『Thyroid Cancer』|Irish Cancer Society)

 

ここで言う、ヨードカプセルの服用とは、アイソトープ治療のためのヨードを体内に取り込むことです。

 

しかし、実際には隔離病棟での治療の1週間前から事前検査が行われ、その際にも少量のヨードをカプセルで服用します。

 

その理由は、事前にヨードを体内に取り入れ、MRIスキャンを受けることによって、体のどの部位にどれだけの甲状腺癌細胞があるか、または甲状腺細胞そのものが残っているかが分かるからです。なので、TSH注射をするのは、この事前検査の2日前ということになります。

 

アイソトープ治療の事前検査について

アイソトープ治療を行う1週間前から、事前検査を行います。この検査では、

 

  1. 血液中のTSH値が確実にアイソトープ治療を行えれるレベルまで上がっているか
  2. 体にどれくらいの甲状腺癌細胞があるか、または転移しているか

 

などを調べます。日本とアイルランドでは内容が少し違うかもしれませんが、一応紹介したいと思います

 

初日

  • 血液検査
  • カウンセリング
  • 血液検査のレビューと医師による説明
  • 2日目のヨードカプセルの服用に関する説明:妊婦さんや赤ちゃんからは最低1メートル以上は離れて生活することや、トイレは2回流すこと、使った食器は速やかに洗う、使ったスポンジを処分する、服は他の家族のものとは別に洗うなどの注意事項の説明でした。

 

2日目

  • 事前検査のための少量のヨードカプセルを服用
  • MRIによる全身のスキャンの説明

 

2日目に少量のヨードカプセルを服用した後に、放射能のマークが入った黄色いカードを渡されれます。

 

ここには、私がどれくらいのヨウ素を服用したかなど詳しい詳細が書かれており、万が一飛行機などで旅行しなくてはならない時は、この黄色いカードを必ず持参して空港で見せなくてはいけないとのことです。

 

放射能マーク入り」カードに記載されてあること

  • 検査名:全身ヨードスキャン
  • ヨウ素の製品名:I-131 Sodium Iodide Capsule T
  • ヨウ素の摂取量:34.14MBq
  • メディカル・フィジシストの署名
  • 私の個人情報(名前、住所、生年月日)
  • 病院の名前と住所、連絡先
  • トイレで用を済ませた後に2回流さなくてはならない期間(3日間)
  • 毎日シャワーを浴びて、頻繁に手を洗わなくてはならない期間(3日間)
  • たくさん水を飲んで、頻繁にトイレに行かなくてはならない期間(3日間)
  • 家族とは別のボディタオルやハンドタオルを使用する期間(3日間)
  • ベッドのシーツや衣服などを家族とは別に洗わなくてはならない期間(3日間)
  • 他の人の食事を素手で準備(料理・配膳)してはいけない期間(3日間)
  • 一人で寝る期間、誰ともスキンシップをとってはいけない期間(2日間)
  • 子供や妊婦に近寄ってはいけない期間(5日間)
  • 家以外の職場やショッピングなどで人に近寄ってはいけない期間(3日間)
  • 職場復帰してはいけない期間(該当なし) 

 

3日目

  • MRI全身スキャン
  • スキャン結果の医師によるレビューと説明
余談

2日目のヨードカプセル服用後は普通に帰宅許可が下りましたが、子供や妊婦さんを被爆させないように気をつけなくてはなりません。

 

私はバスを利用して片道1時間ほどかけて通院していたので、その間の長距離バスで子供が近くに座ったときは、風邪を引いているので、近くに寄らないようお願いしたりと、結構神経を使いました。。。

 

 

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blog-ireland.hatenablog.com

 

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